題未定


 長岡新はその朝、いつもより三十分ほど早く寝床より這い出てきた。窓の外はまだ薄暗いが、どうも霧が出ているようで、いつもならば確認できる送電鉄塔がそこには無かった。
 彼が早起きした理由は、自分が蝶になる夢を見たせいであった。それは決して悪夢ではない筈だったが、体は汗に濡れており、軽い疲労感も残されていた。結局、蝶になったということと餌になっていたような暗い気分以外、その具体的な内容を彼が思い出すことはついぞ無かった。
 彼は炊飯器の隅に残る物憂げな僅かな米飯を取り出すと、網戸を開けて窓辺にそっと置いた。それは彼が数週間前から始めている儀式である。遅かった起床時間は、この新しく追加された日課のために、随分と早くなっている。
 まだ雀が巡回してくるには早いはずである。乳白色の固まりがどよんとしている様を見つめていると少々眼の疲れが取れてくる。朝起きたばかりなのにもう体は起きることに疲れている。ただ新には珍しいことではなかった。
 汗で湿気ている布団に潜り込むつもりにはなれず、彼はざらざらとした砂壁様のクロスにもたれかかると軽く頭を垂れた。

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