森の奥深くで、狐が静かに苦しんでいた。

「寿命が来たんでしょう。ここの時の流れは、永遠に似ていてそうではない。
 月の名を持つ猫の守護を受けなければ、何時かは滅びゆく運命なのです」

 命の輝きの、蛍の灯火のように幽かに瞬いているのは僕にも容易に見て取れた。

「私は、この森で様々な行く末を見定め続けてきました。
 あなたまでを見届けられないのは、心残りですが」

 雨も降っていないのに、頭上からは水滴が時々落ちてくる。
 狐の頭をそれが打っても、冷たそうにして固く閉じられた瞼をぴくりと動かすだけだった。

「猫は、どうしているんでしょうかね」

 答えが無くても、呟いたことに狐は満足していた。
 ぽた、と水滴の落ちる音は、ますますはっきりと聞こえていた。

「月が──輝いている」

 ぽとん。

 水滴が鼻を濡らしても、狐は最早何の反応も示していなかった。
 気の遠くなるような歳月を、この森を一歩も出ることなく見守り続けた狐は、
 最後まで森を見守り続け、森に見守られて息を引き取った。
 軽く天を仰ぐ。
 月の輝いていたのは僕には見えなかった。
 猫の、最後の餞(はなむけ)だったのかも知れない。

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