「ねぇ、この本、何で六と七だけないの?」

 子どもの問いに、安楽椅子に横たわっていた司書の老爺は体を起こした。

「出掛けているんだよ」
「出掛けてるって、何処に?」
「哀しい色を持つ、暖かな世界にね」
「それってなぁに?」

 老爺は顔をしかめて、答えた。

「それは知らない方がいいんだ。
 紡がれる物語は、常に淡い悲劇しかもたらさないのだから。
 さ、もう遅いから、お帰り」

 老爺は今日最後の客となった子どもを追い立てると、館内の灯を消した。
 そして抽出から仮面を取りだし、軽く埃を払った。
 遠い遠い過去に受け渡された、遠い友人の形見。
 永遠を捨てた彼は、自らの証を老爺に託した。

「さよなら、月の名を持つ猫、良い夢を。
 そして今宵も、虚飾に彩られた世界を駆け巡ると良い」

 鳴き声は一つ、また一つ、天に響いた。
 少しだけ欠けた月は、夜空にかかりはじめていた。



 七月猫、了


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