羽の生えた少女なんてのは見たことも聞いたこともなかった。この町に来て、初めて聞かされたのだ。少し驚きだったのは、無関心層と呼ばれるべき人間も少なからずいたことであり、そういう人達は大抵、同じように海にも心を寄せていなかった。
「だって、ねえ。泳げない海よ。近寄ることも禁止されてたんだから、単なる塩水の塊のようにしか思えないのよねえ、いくら近いって言ったって」
 その日もそれ以外にするべきことがなかったので、僕は投宿している安ホテルから崖までの磯臭い道を何度か往復してみた。歩いているうちに、僕のYシャツは汗でぐっしょりと重くなった。しかし止まりはしなかった。汗の饐えた匂いが鼻を突くようになっても、もう一回と思いながら歩いた。
 少女は何で同じことをずっと繰り返せているのか。たった一日で嫌気の差している僕には、こんな生き方が面白いとは思えなかった。何十度目になるのか、崖に辿り着いたとき、日は既にとっぷりと暮れていた。
 草地に腰を降ろすと、そのまま仰向けに倒れた。
 あの夜空で暮らせると言うのなら、僕は他の何も要らないだろう。
 少なくとも、この汚れきった世界よりはましに違いない。
 夜空は何も答えてくれそうにはなかった。

 懐の飾り羽の中で、仲間はずれの白い羽が蠢いた。
 嫌なのだろうか。
 そう思い、胸ポケットに入れようとしたとき、それは手から離れた。
 地面にひらひら舞い降りたかと思ったら、小さな石ころへ姿を変えた。
 何でそんなに拒むのか、少し憐れに感じた。
 ただ、それは僕の勝手な感情だった。
 驚くべきことに、石ころは淡い灯火を天頂へ指して、瞬く間に消えてしまったのだ。
 夜空は黙ってそれを受け容れていた。
 今度の僕は嫉妬に駆られて、同じような石ころを掴み夜空へ向かって投じた。

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