ところが、話はこれで終わりではないのだ。このまますんなり終わっておけば良いものをと思われても仕方ないが、これだけはどうしても追記しなくてはならないのだから、言い訳のしようもない。
 それが本当に声だったのかはともかく、後日、彼の老漁師は確かに、
「壊れた夜空は要らない」と叫んでいたものである。
「俺たちは一体いつ、どんな権利を失ったんだ。何の罰を受けることによって、甘美な空間から遠く退けられたんだ。ついさっきまでそこに在ったはずの幸せは何処にもない。多くの海は人を遠ざけた。下手をすれば悲惨な死が日常なところだってある。何故夜空だけが全てを持っている。そんな壊れた夜空なぞ、誰も要らないんだ」

 彼の呼ぶ「壊れた夜空」とは如何なるものなのか。
 僕には見当が付かない。夜空が壊れたなど、誰によって規定されたのかも僕は存じてはいないのだ。星の悪戯やぷいと横を向き笑ったりする仕種のことは知っていても、有形の恒久的な変化や或いは消えてしまったり(隠れてしまったというのではなく)という報せを耳目に入れたことはない。
 大体、夜空は万能で全てを持っている存在であるはずなのだから。

「香りのない造花は要らない。それと同じことだ、壊れた夜空なぞ必要ない」
 だが、その時の僕はただもう何も分からずに、陸上で呼吸できず苦しみ暴れ回る魚となっていた。欲しいものは目の前だけではなくそこら中にあるのに、僕はそれを手に入れる手段を何ら持ち合わせてはいないのだ。
「全て幻なんだ!」
 それとは反対に、漁師の声は、もう嗄れてはいなかった。
 人から伝え聞いた話だと、彼は狂人として病院に収容されたそうである。

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