夜空のことを尋ねると、彼は「言えないんですよ」と言ってはぐらかした。
「意地悪をしているわけではないんです。覚えていることが多すぎるんですよ」
「多すぎる?」
「ええ。私は確かに多くのことを知っています。しかし明らかに知りすぎているのです。どれが本当でどれが嘘なのか、私自身にも判別がつかないのです」
 促されて僕は天を見上げた。そこには、無数の星が瞬いている。汚れきった大地を知っている眼には、その輝きが一際美しい。
「あそこには星があります、あれをどう思いますか?」
「美しいですね」僕は正直に答えた。
「私はあれを見ると、時折帰らなくても良いと通告されているように感じます」
 僕は何と反応すれば良いのやらも分からずに困惑した。
 星は思い思いに鋭いキラキラとした光を放っている。彼らは僕達の会話を耳に入れているのだろうか。
 昔はあの光はもっと優しく淡かったという話を、いつしか僕は思い出していた。
 今の光は強すぎると言う。誰に聞いた話なのだろうか。
 星は血の色のような赤い光を相変わらず投じ続けている。
 それを見つめる彼の眼差しにこもる淡い光に何が映っているのかは、見取れなかった。

 続き 帰る