「お前は夜空を目指したことがあるか。俺はある。若い頃はこの汚れきった海が嫌いだった。喧しいエンジン音から解放されて、澄んだ夜空で黄金色の音色を飽きるまで楽しんでみたかった。枯れた海の所為で痩せそぼった魚ではなくて、蜜の塊のように甘い果実を口に含んでみたかった。しかし夜空は俺を受け容れちゃくれなかった。まあ仕方のないことだ、魚と同じことだ夜空にだって無限に見えても限りはある。天鵞絨を敷いた腰掛けや沈んでしまいそうなくらいふかふかのソファよりも、くたびれた木製の丸椅子が俺には一番よおく似合ってるんだからな。他人のことは知らないが、俺はもうそれで良いんだ」
 結局、その日は少女の話はしなかった。

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