4.月の夜の遠足の話
昼方子どもがアイスを落とした痕も、真っ黒になって何も見えない
上弦の月がそろそろ西の山へ沈もうかという刻限
か細い光の中で、昼間の興行に疲れた動物たちがじっとうずくまっている
そこかしこから洩れる小さな寝息大きなくしゃみ、寝惚けた鳴き声
ひょいと小人たちの躍り出たのは、そんな頃合いのことだった
緑の帽子と黒い革靴をお揃いにして無人の通路を練り歩いてくる
引率の教諭らしい団栗のへたくらい背高の小人が先陣を切っている
通りすがりに狐が気付いた様子だったが、すぐに顔を前足の方へ埋め直し狸から油揚げをかっさらった夢の続きを見始めた
二列縦隊は目的地の象の檻の前まで来て行進を止めた
後ろの小人たちは何も聞こえないといった様子で遙か上の方を窺ってばかりいる
「さて、ここが象の檻になります。象についてはこの前の授業に説明したとおりです。檻の向こう側に落っこちないように、柵の手すりにはよじ登らないように」
上の空の生徒たちはそれでも、では自由に観察しなさいと言われた途端一斉に駆けていった
象は葉巻のような長い鼻を巻き加減に、半分に欠けた月をじっと見ていた
遠く遙かな故郷で見たのと同じように妖しげに湾曲している、踊り子の描く線のように妖艶な型取りを持った灰色の月
そのちょっとした楽しみを邪魔するようにちらちらと小さなものが映ってくる
追い返すのも哀れかなと想いながら一つくしゃみをすると、案の定何人かが吹っ飛んだ
コロコロ転がって逃げていくのを見ると気怠げに耳を揺らしまた今度お出でと口の中だけで声を出し
そして俄に月が霞むと、優しげな黄金色の目を緩やかに閉じた
人の耳にはしわぶき一つ聞こえなかった、静かな月夜の静かなやり取り