5.月の出ていた夜の話
小さな懐中時計がゆらゆら揺れて
月の光と沈んだ先は船の底
塹壕に落ちる黒ずんだ銃弾が知っているのは
姿を変えていく月の表情
ほんの少し前まで硝煙の匂いの立ちこめていた町
今は代わって もっとどす黒い 鳥肌の立つような匂いに支配されている
低く轟く鐘の音も寂しげで
皺腕はひたすらに胡弓を奏で続けた
女たちの祈る声は道々に響き渡り
歩みを止めた者はただやるせなく頭上を見上げた
いつからこんなことになったのだろう?
望んでいた者など誰も居なかったろうに
誰からも進み続けることを拒まれた針は 澄まし顔で無雑作なリズムを刻み続けている
近くに見えていた月が果てしなく遠い
ただ、何も変わり映えのしなかった月夜の話