その日は、蝉の声に目を覚ました。
 小さな古い腕時計は、澄まし顔で五時を差していた。

「七月猫を探しに行かなきゃ」
「その必要は、無いよ」

 初めて聞く声。
 なのに、聞いたことのあるような声。
 僕は、確信しながら空を仰いだ。

「僕が七月猫だ」

 どこにでもいるような三毛猫。

 ただ、瞳は燃えるような朱に彩られていた。
 空に悠然と浮かびながら、七月猫は僕を見下ろしていた。

「でも僕は、まだ君とこれ以上話すことは出来ない。
 君には、知らなければならないことが沢山ある」
「待って……」

 声を掛けようとする前に、七月猫は天に駆けていった。
 空に波紋が起こり、その中に七月猫は消えた。

 何も知らない蝉は、相変わらず喧しく鳴いていた。

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