幽かに覚えている。
 映画の1シーンのように断片的に、網膜の裏に焼き付いている日々を。
 最後に見た、彼女の涙の真意を。

「お早う御座います」

 蝋燭の仄かな明るさに照らされながら、仮面の男が僕の前に立っていた。

「何か、夢を見ていたような気がするんだ」
「その場限りのものですから、夢というのでしょう」

 窓硝子の向こうから、一条の光が飛び込む。
 これまでに幾度も見てきた、闇が掻き消える瞬間。
 自分がここにいることを、実感させてくれる。

「夜が、明けましたね」

 蝋燭を吹き消しながら、男は窓の外を見遣った。

「七月猫も、彼女も、この夜明けを見ているのかな」

 男は黙して答えなかった。

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