草っ原の中央に、古い鉄製のベンチが置かれていた。
赤く塗られていたのだろうけど、所々剥げ落ちて惨めな姿を曝している。
独りぼっちで、ずっとここに置き去りにされていたのだろうか。
そう考えると少し哀れだった。
真ん中には、ラジカセが一つ、ぽつんと腰掛けていた。
再生ボタンは重くて、みし、と軋む音がした。
「汝に、選択する勇気はあるか?」
すぐに、重々しい嗄れた声が朗々と流れ出してきた。
「一つが為に一つを失うは、本質的な変化を伴わぬ世界の真理。
どの道にも是非があり、選択には何らかの苦痛を伴う。
それを恐れぬが勇気、そして優しさとなろう。
選択のためには物事の真実を見極める眼を持つことが肝要となろう。
汝にはその眼を以て見出し、選択を担う義務がある」
一方的に告げた後、再生ボタンは無機質な音を立てて元に戻った。
「何を伝えたかったんだろう」
ラジカセの掻き消えてしまったベンチに寝転がり、天を仰ぐ。
そのまま、流れる雲を眺めていた。
雲は何を急いでいるのか、早足で流れ去っていく。
僕は、勿体付けるようにゆっくりと瞼を閉じた。
自分が風になり、雲を追い掛けているように錯覚した。
次に瞼を開けたとき、視界に映るものはさっきと同じだった。
指先は、僕の意思に合わせてぴくりと動いた。
けれども体を起こす気にはなれず、僕は寝そべったままで空を見つめた。
風は、肌を撫でるように吹き抜けた。
ふわ、と体の持ち上がるような感覚がしたのが、心地よく感じられた。
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