雷が鳴っていた。
 雨宿りしている木を見上げて、この木に落ちるかも知れないと思い、
 それでも構わない、と考えた。
 稲光が近付くたび、心の中で数を数えた。
 雷鳴(おと)も、雷光(ひかり)も、恐くはなかった。
 ずどん、と鈍い音を聞いたような気がした。
 衝撃が体を走り抜け、僕は気を失った。

 目を開けたとき、空は青々としていて、僕は仰向けにそれを眺める形になっていた。

「死ねなかったな」

 思ってもいなかったけど、ぽつりと呟いた。

「何言ってるのよ、馬鹿」

 すぐ近くから、線の細い声がする。
 でも、姿を見ることは出来ないと分かっていた。
 昼顔のように仄かに甘い匂いは、風になって遠ざかっていた。

 続き 帰る