静かに、音だけを別の世界に渡しているかのように、木の葉が舞う。
 滝の音だけが、林の中を幽かに走り渡っていた。

「時が止まっているように思えますか?」

 智は、空中の木の葉を器用に飛び移りながら、僕の少し前を歩いていた。

「前、白蛇が言っていたよね」
「ええ、そうです。この世界でない世界は今、時を止めています。
 今までに幾度もあったことですがね」
「何度も?」
「そうですよ。私達は幾度も同じ光景を見てきました」
「そして、幾度も同じ結末を目の当たりにしてきた」

 前方の茂みから狐が現れ、智を背中に乗せた。

「時間はありません。私にも、あなたにもね」

 狐の碧に、翳りがふと映った。
 諦観したように首を振ると、二人とも奥に消えていった。
 追い掛けても無駄だろうから、僕は立ち尽くした。

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