「さよなら」
ドアマンの挨拶を聞きながら、僕は大時計の下のソファーに腰を落ち着けた。
大時計は、その動きを見る者に不安を感じさせながら、自分は澄まし顔で時を刻んでいる。
「最近、妙なことがあるんです」
「妙なこと?」
「風になったような気分になったり、体が今までよりも軽く感じたり。
まるで、自分が自分でなくなったような」
「それはいけない」
多分今までで一番激しく、仮面の男は声に調子を付けた。
「本当なんですか? 今仰られたことは」
「ええ」
「形有るものに、無限はあり得ない。あなたも、変わってしまう時が来たようですね」
嘆きながら、仮面の男は奥に消えていった。
「さよなら」
ドアマンの声も、少し寂しそうだった。
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