白い息は空に昇り、雲になっていた。
 流されて消えていく雲を眺めていると、自分も一緒に飛んでいけそうな気がした。
 そして、風になって自由気ままに空を舞う彼女のことを思い出した。

「何で、彼女はあんな風に振る舞えるんだろう」

 山の稜線は起伏もなだらかで、終わりの無いように延々と続いている。

「この世界は、哀しみしか知らないはずなのに」

 一歩一歩踏みしめる毎に、足の裏にしっとりとした感触が張り付いた。
 頂は霞んでいる。
 彼女への哀しみに、僕の心は声を押し殺して泣いていた。

「何が哀しいのですか?」

 山は、いつの間にか緑に包まれていた。

「また、お会いできましたね」

 羽の生えた犬が、名も分からない花にちょこんと腰掛けていた。
 僕もそっと腰を下ろす。
 ふわり、と花が揺れた。

「僕には彼女のことが分からない」
「無理に分かろうとしても駄目ですよ」
「不安なんだ」
「早く七月猫を見つけることです。
 私には、直接に手助けすることは叶いませんが」
「有り難う」
「智です、私の名前は。またいつかお会いできるでしょう」

 それだけを告げると智は消えてしまった。

「有り難う」

 どういたしまして、と風に乗って聞こえたような気がした。
 心は、もう泣くことを止めていた。
 立ち上がって、もう一歩、頂きに向けて歩き始めた。

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