夜になると、何も見えなくなった。
 仕方がないので、吸い込まれそうな闇に体を委ねた。

「この世界には、月がないのか」
「ありますよ」

 不意に声が降ってきた。

「こんにちは、無能の人」

 かさかさと落ち葉を踏む音がして、何かが僕の横に身を横たえた。
 金色の輝きを持つ狐が、薄目に開けた瞳を覗き込んでいた。

「お気に障りましたらご容赦を。私は悪意を以て申し上げているわけではありません」

 深い碧が、僕の視線を釘付けにして閉じ込めていた。

「この世界には猫が足りないからですよ」

 尋ねようとしたけど、何かに当てられたように、僕の体はぴくりとも動かなかった。

「私は彼女を捜しています。六月猫と共に時を閉ざした彼女を」

 とても哀しそうな色が、闇に溶けていった。

「ですが私は、この森から出ることを許されていないのです」

 その後の狐の言葉は、耳まで届かず風に散った。
 狐もそれは知っていたけど、気にしていない風だった。
 不意に天を見上げて、耳元に聞こえるように囁いた。

「直に朝が来ます、ご機嫌よう」

 最後に振り返ったその瞳は、矢張り寂しそうに見えた。

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