「猫を除いてもっとも長生きしているのは、あの狐ですよ」
智は縁側に腰掛け、器用に西瓜をしゃぶっていた。
「白蛇よりも、君よりも?」
「彼は長生きをし過ぎて、森の空気の中でしか生きられないのです。
この世界の美しい空気も、彼に言わせれば汚れてしまったと言います」
「君たちは何処から生まれ、何処に消えていくのかな」
髭についた汁を舐め取り、智は一つ大きな欠伸をした。
「さぁ、分かりません。そもそも私達は何の為に存在しているのかもです」
「それを言えば、誰だって同じだよ」
「永遠に近い寿命を与えられ、私達は何をすべきかを見失ってしまっているのかも知れません」
目の前の田圃を、僕たちは目を細めながら眺めていた。
風の吹き付けるたびに、真っ直ぐに伸びた稲は青々とした体を少しだけ傾けていた。
「狐はそれを知っているから、その為に彼女や六月猫を捜しているのかな」
「残された時間は、もう僅かのようですけどね」
「僕にも、時間はないらしい」
智は黙して残った皮を見つめていた。嘘をつくのは不器用だった。
庇に作られた影は、ほんの少し先の地面とは違い、ひんやりと体を包み込んでいた。
稲穂と戯れようと、僕は風になって走り去った。
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