嵐はいよいよ吹き荒れていた。
「私は出掛けてきます」
仮面の男は急須を傾けながら、唐突に切り出した。
「いきなりどうしたんですか?」
「きっと、飽きたのですよ」
穏やかな口調で告げると、男はドアマンに合図をした。
ドアマンから受け渡されたものをそのまま僕の掌に落とした。
銀色に光る鍵束は、僕の手に渡った途端に光を鈍くしたようにも思えた。
「あなたにだけは、悲劇としての終幕は迎えて欲しくないものです。
喜劇でもなく、悲劇でもなく、ただ平穏な終演を迎えられることを私は願っています」
男の消えるのを、ドアマンはじっと見守っていた。
「お休み」
僕に言い残すと、ドアマンもまた歩き去っていった。
一人ホテルに取り残されて、僕は柱の出釘を見つめていた。
それを直す気にはなれなかった。
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