「僕は、彼女をこれ以上傷付けたくはない。たとえまやかしでも、仮初めのものでも、
彼女が一時の幸せを手に入れることが出来るというのなら、そうしてあげたい」
「……良いんですか」
「構わない」
「皆、同じなんですね」
智は底の見えないような深い溜息を一つつき、淡い泡沫と化した。
代わりに、六月猫を押し頂いた彼女の姿を僕は目の前に見た。
手を差し伸べると強く握り返してきた。
温もりはなく、雨に打たれたような冷たさだけが僕の肩を走った。
肩をすり寄せ、僕は一言、そっと囁いた。
彼女は一瞬笑みを浮かべ、次の瞬間には涙を一杯に浮かべていた。
冷え切った体を、僕は力一杯抱き締めた。
終幕へ