風がそよいでいる。
 私の、風になってそれに交わることはもう無い。
 風にはお線香の匂いが少し混じっていた。
 もう一度しゃがみ込み、手を合わせる。
 天から降り注ぐ日射しは、私の項を容赦なく焼き付けていた。
 雲は終わりを知らないかのように流れていく。

「……えっ?」

 今、彼の声が聞こえたような気がした。
 反射的に、後ろを振り返る。
 誰もいない。

 ……いや、猫だ。

 私の双眸は、木陰に寝そべる猫の姿に吸い寄せられていった。
 空耳が、もう一度だけ聞こえた。

「お帰りなさい」

 私はそれだけを言い、遠い空を見上げた。
 いつもと同じ筈の空は、少しだけぼやけて見えていた。



 七月猫、了


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