「序・1」

 白い貫頭衣を着た男の渡り歩く、澄み切っていて淡い光と音に満ちた、小さな小さな夜空の世界。
 僕が足を乗せると、雲の敷石はくすぐったそうな声を出した。大声を上げながら腹を捩じらせ、そのまま僕を振り落としてしまいそうである。下を見て、胡麻粒のような視界に背筋を震わせながら、一向に止めようとしない敷石に、落とさないでくれと哀願した。
 そうしたら「嫌だよ」といって、とうとう僕は放り投げられたのである。
 その瞬間、僕は身をすくめて固く目を閉じた。
 空は刃のように鋭く尖り、身を切り裂いていく。
 或いはのしかかってきた重圧に、ぺしゃんこに押し潰されてしまいそうである。
 涙を流す時間も惜しくて、僕は今までの人生の走馬燈を走らせようとした。
 けれども灯は点ってくれない。前も後ろも、何も分からなくなった。どうしたんだ、話が違うじゃないかと、あの道案内を買って出た男に毒づいたとき、僕の四肢は闇にがっちり受け止められ、酸欠と貧血と持病の発作とが一遍に起こったような衝撃に頭を掻き回されてから、そのまま、何も分からなくなった。

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