この町は夜空が見えるからまだ幸せですね。
二三人ばかりこちらを向いたが、すぐに視線をコップへ落とした。
「あんた、夜空が見えるのがそんなに羨ましいかね」
漁師は粘っこい視線で僕を見つめた。
ええと答えると、鼻でせせら笑うのが所々で起こった。
「届かない夜空を見せつけられるのには、この町の人間は懲り懲りしているのさ」
代弁したらしく告げ、一升瓶の残っていた中身を全部コップへ移し替えた後で、酷く湿った声がぼそぼそ唸った。
「あんた、この前何を見たかね」
赤い石のことだろうと独り合点した。
けれども漁師のいうことは全く違っていて、僕はそれでもしばらく話を聞いていたが、ついには馬鹿馬鹿しくなって先に席を立った。
外に出ると、今日の夜空も昨日の夜空と同じように美しく輝いていた。
一体全体、どこをどうしたらあの星が少女に見えると言うのだろうか?
懐に入れてある飾り羽が、呼応したのか軽く打ち震えた。
それを撫でた後で、僕は月気に身体をさらしながら、のんびり夜道を歩いていった。
続き 帰る