数日後、あの漁師と会った居酒屋に足を運んでみると、すっかり狂人扱いされてしまっている漁師は、沈鬱な調子で手酌をしていた。
黒い羽は翻って沈んでいったという。
本当は空を目指さねばならなかったのだ、漁師はやるせない調子で呟いた。汚された羽は重すぎて、自らの羽を見失った。
けれども僕は知っているのだ。夜、黒い鏡となった海から羽がすうっと上ってきて、体を震わせ水気を飛ばしたかと思うと、そのまま一気に駆けていったのを。夜に馴染んでいたはずの隅のような黒色はすっかり取り払われて、作り物のような白を手に入れていた。
薄い闇を見上げれば、雲や空はそれこそ飲み込んでしまいそうな包容力で羽を迎え入れていた。それで、指先から爪先までを一本の線にして、僕は小高い崖から海に飛び込んでみたのだ。
運良く頭を岩にぶつけなかった僕は、夜空に迎えてもらえないことを確認して、声が出なくなるまで笑い尽くした。笑い終えた後は泣き、高ぶった感情は肌を刺す痛みさえ忘れさせていた。
夜空も、それを嘲ることはしなかった。
続き 帰る