「何で夜空のことを調べているんだね」
 老人が僕にそう問いかけてきたのは、この忘れ去られた知識の館で調べものを始めてから、一週間が過ぎようとしていたときのことだった。彼の淹れてくれた紅茶を口にしながら、僕たちは古ぼけたテーブルに腰を下ろしていた。
「夜空に渡りたいからです」
「何故」
「忘れました」僕は正直に答えた。長い年月を経ている間に、僕は夜空の真実を追い求める理由を失くしてしまっていた。
「ただ、会いたいからということだけは覚えているんです」
「会いたいから? 誰に」
「それも忘れました」
「そんなあやふやなことのために、君は若い時を浪費しているのかね」
 呆れた話だ、という返事でも返ってくるかと思ったが、彼は思わぬことに、郷愁のこもった眼差しを木目に走らせていた。
「私にも覚えがある。友人の話であって、私のことではないがね。私は彼の帰りを待ちながら、こうして無駄に流れていく針の進みばかりを見つめている」
 卓上に組まれた彼の拳が細かに痙攣した。僕は視界の端でそれを眺めていた。
「夜空の真実を知りたいのか。渡るということは真実を見つけるということだ。真実を補完するということは代償として何かを失うことだ。それは単に知ることとは違う、夜空の歴史を背負い込みかねないという、重みのある行為だ」
 何か知っているのかと尋ねようとしたが、彼の尋常ならぬ哀しげな表情に、言葉を飲み込まざるを得なかった。彼は深く嘆息すると、それ以上語ろうとはしなかった。

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