僕は黒い海と白い波を見渡しながら、崖の上に立っていた。あの羽は黒くなかったんだ、漁師はそう喋ってもいた。子どもの頃に覚えている姿は、黒ではなかったのだという。黒でなかったら何なのかは覚えていないがとにかく黒くなかったんだ、多分白だったんじゃないか。烏の化け物なんて悪くいう奴もいるけれど、あれはそんなもんじゃない、一度会って見れば分かるんだ、海に出ることに脅えて浜で仕事をしてばかりいるから見えるものも見えない。
崖のもう少し切っ先の方まで足をすり寄せてみた。風は強くもないのに酷く痛い。海は汚染されきってしまっているというのだから、或いはこの海風も多分に毒を含んでいるのかも知れなかった。あとほんの少しだけ、ここまでは大丈夫だろうというところまで足を伸ばしてみた。まず最初に荒々しい表情の岩が見えた。次に何も見通させない暗い海に目を転じた。けれども洞窟は見えなかった。ただ代わりに、星の光は視界の外れたところから自己主張を繰り返していた。
首の関節を鳴らすついでで夜空を眺めてみた。
それでようやく気付いたのだが、星たちはこっちを向き、地べたをはいつくばる僕を嘲笑っているようだった。
何でわざわざ僕を選んで笑っているのか。忌々しい気持ちになって、僕は手頃な星に向かってあっかんべーをした。
すると、西の空の方から、不意に光の塊が投げつけられてきた。
額に当たったそれを屈み込んで拾ってみて、僕は驚いた。強い赤の光を持った小石が、周りの光を吸い取っていたのだ。
怖くなって海の方に投げ入れると、今度は蛇口を勢いよく捻ったときのような光の洪水が起きた。その中央で、小石はけたけた笑いながら夜空へ戻っていった。何が何だか分からないままに空恐ろしくなり、僕はイミテーションの光に包まれた町の方へ一目散に駆けていった。
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